1.歯・口の外傷の種類と現状
独立行政法人日本スポーツ振興センターの報告では、学校管理下での障害見舞金において。「歯牙障害」が依然として高い給付率を示している。顎・顔面及び口腔領域の外傷では、上下顎顎骨骨折のような重症なものから、前歯の一部破折などの軽度のものまで多くの種類があり、その後の生活やスポーツ活動等に大きな影響を与える。
一般的には、歯の障害、歯槽骨、顎骨の障害、口腔軟組織の障害により、障害が残る場合が多い。学校歯科保健活動などの結果として、むし歯は減少し、また軽症化してきているが、外傷で健全歯を失ってしまうケースが多いことは残念である。その意味から、幼児や小学生の転倒や衝突による事故を防止したり、体格的にも体力的にも優れ、技術的にも高くなってくる中学生期や高校生期の体育・スポーツ活動での外傷の予防に努めたりすることは、子どものQOLを高め、健康な生活を実現するという歯・口の健康づくりにとっても大きな意味がある。
2.歯・口の外傷の予防と応急処置
(1)歯の外傷の種類
歯の外傷の種類には、歯冠破折、歯根破折、脱臼、陥入などがある(図20)。
(2)応急手当
①顎骨骨折の場合は、重篤な症状となるので、できるだけ動かさずに歯科口腔外科に搬送する。
②歯の脱臼はできる限り早急に歯科医療機関で再植する。この際、歯冠部を持つように注意し、歯根を持たないようにする。再植を可能とするには、歯根周囲の組織が必要なので、歯根には手を触れないことが原則となる。泥などで汚れた場合も洗いすぎない、こすらないようにする。また、乾燥させたり水につけたりするとおおむね30分程度しか再植可能時間がないといわれる。直ちに対応できないときは乾燥させないよう「市販の保存液」、あるいは「牛乳」に保存して、可及的速やかに歯科医療機関を受診する。
③歯の陥入は、止血処置を優先して歯科医療機関へ行く。
④歯の破損は、歯髄が見えるようなら直ちに歯科医療機関に行く。
(3)マウスガードによる外傷予防
マウスガード(ボクシングでは歴史的にマウスピースと呼んでいる)は、上顎の歯列を軟性樹脂で被覆し、外力を緩和する装置であり、基本的には「スポーツによって生ずる口腔外傷、特に歯とその周囲組織の外傷発生やダメージを軽減するために口腔内に装着する弾力性のある安全具」を指している。歯の外傷は圧倒的に上顎の前歯に集中するため、通常は上顎に装着する。
(マウスガードの種類)
マウスガードは、作製方法からみて大きく2種類に分類する(図22)
①マウスフォームドタイプ・マウスガード
現在市販されているマウスガードはこのタイプに属している。マウスフォームドタイプのマウスガードは、その作製方法の違いから、さらに熱可朔性タイプとシェルライナータイプに分類されている。初心者では作製が難しいこともあり、違和感が強いこともある。
②カスタムタイプ・マウスガード(図23)
カスタムタイプ・マウスガードは個々の歯の模型から作製されるタイプのマウスガードであり、歯科医師が関与するため極めて装着感に優れたマウスガードである。
(4)マウスガードを使用させる際に必要な指導
マウスガードの種類は発達段階やスポーツの種類によって選択するとよい。接触をするコンタクト・スポーツ(バスケットボール、ラグビー、アイスホッケーなど)や、格闘技、球技(野球、ソフトボール、ホッケーなど)に参加する子供には、自らの歯や口腔の外傷を未然に防ぐためにマウスガードを装着することが有効である。しかし、敏感な口腔内に装着する装置であるため違和感を訴えることも多くあり、装着を推奨する一方で、安全の視点からも自らの歯や口腔を守るための自己努力を促すような指導が必要になってくる。装着してから違和感が強いとほとんどの者は装着をあきらめてしまうので、装着前の指導が重要な意味を持っている。
具体的には、次のようなことを事前に十分指導することが考えられる。
①スポーツにより歯や口腔に外傷を受ける機会があり、場合によって歯の喪失や顎骨の骨折あるいは軟組織の障害をもたらすことがあること。
②マウスガードを装着することで、その危険性を低下させるとことができること。
③むし歯や歯周病は装着前に治療を完了しておくこと。
④定期的(1年に2回程度)にチェックを受けること。
⑤使用頻度、発育途上にある年齢かどうかなどの要因で作り替える期間が異なること。
(参考)公益財団法人 日本学校保健会「「生きる力」を育む学校での歯・口の健康」より