口腔ケアは円滑ながん治療に欠かせない
安全で苦痛の少ない、より良いがん治療やおだやかな療養生活を実現する一助けとして、口腔ケアが注目されています。がん患者の口腔を健全に保つことで、しっかりと食べて体力を維持し、口腔細菌による感染症のリスクを下げ、がん治療による口腔合併症のリスクを軽減することができます。
がん治療中の口腔合併症
がんの治療中には、口腔に関連する関連する副作用・合併症も頻繁に出現して患者を苦しめます。口腔合併症は経口摂取の問題に直結し、この対策を怠ることは、がん患者の療養生活の質を下げ、治療を苦しいものにしてしまうだけでなく、円滑ながん治療の大きな妨げとなって、時に治療効果にも悪影響を及ぼす可能性があります。
口腔内細菌が影響
口腔合併症の発症頻度やその重症度は、口腔内細菌による影響が少なからず関与していることが知られています。
口腔内の衛生状態を良好な状態に維持し、口腔の機能を健全に保つよう指示・管理する「口腔ケア」が、口腔合併症の重症化を抑え、症状を緩和・軽減してがん治療の療養生活の質を高め、円滑ながん治療の支援となります。
口腔ケアで、口腔合併症を抑える
がん治療中の口腔合併症のリスクを下げるために、がんの治療開始前に歯科を受診し口の中を清潔にして、感染症など口腔のトラブルが起きにくいようあらかじめ備えておくこと、がん治療中は歯みがきを中心としたセルフケアで口腔内の清掃管理を継続することが推奨されます。
エビデンス
がん外科療法
がんの外科手術の前後に口腔ケアを行ことによって、術後肺炎のリスク軽減、気管挿管時のリスク軽減(歯の破折、脱落など)、口腔咽頭、食道手術における術後合併症のリスク軽減が期待できます。
●外科病棟に入院した患者3,319人を対象とした研究では、手術の前に術後肺炎予防プログラム(呼吸器リハビリ+口腔ケア)を実施することにより、術後肺炎の発症頻度を1/4に減少させました。
●頭頸部進行がん手術の患者を対象にした、術前からの口腔ケア施行群56人と口腔ケア非施行群35人の術後合併症についての介入比較研究では、口腔ケア介入が術後合併症の発症のリスクを1/7に下げました。
がん薬物療法
予想される口腔合併症のリスクを考慮した口腔ケアを治療開始前から行うことで、がん治療中の感染管理、経口摂取支援、疼痛緩和を図り、療養生活の苦痛が少なくなるよう援助して、がん治療の完遂を支援することで治療予後にも貢献します。
●化学療法予定の乳がん患者26人を対象としたランダム化比較試験では、予防的専門的口腔ケアを行った群は、口腔有害事象(特に口腔粘膜炎のリスク)が有意に減少しました。
●ゾレドロン酸の治療を受けた多発性骨髄腫の患者128人を対象とした研究では、予防的な口腔ケア介入によって顎骨壊死の発症が26.3%から6.7%へと優位に減少し(P=0.002)、また重症度の抑制にも貢献しました。
(国立がん研究センター中央病院 歯科医長 上野 尚雄先生)
公益財団法人 8020推進財団 小冊子より