歯科治療に用いられる主な材料は、合金、合成樹脂、セラミックスの三つだ。合金には複数の金属が含まれ、金の含有量が多い金合金は基本的に保険が利かない。保険診療で広く使われているのは金銀パラジウム合金だ。合金は強度があり加工しやすいが、二つの問題がある。
一つは、金属アレルギーの原因になることだ。全身性の皮膚炎、湿疹、口内炎などの症状を引き起こし、全身の皮膚が黒褐色になるような重症例もある。
愛知学院大歯学部の服部正巳教授によると、健常人の1割程度は金属アレルギー予備軍で、歯の治療から何年も経って症状が現れる場合もある。原因が歯科材料用の金属とわかれば、体に安全なセラミックスなどに代える。
しかし、セラミックスは基本的に保険が利かない。厚生労働省は長年、歯科診療費を抑制してきた。服部さんは「金属アレルギーのある患者へのセラミックス使用には保険を認めてほしい」と話す。
さらに歯科用合金は、市場価格の影響を受けやすいため、供給面への不安からも金属に代わる歯科材料の開発が求められている。
厚労省は今月、奥歯が1本欠けた患者への非金属ブリッジ治療を、検査などには保険が使える先進医療として認めた。ブリッジは、抜けた歯の両側の歯を橋げたのようにして人工の歯を入れる。これまで、奥歯のブリッジには、金属のみか、金属を合成樹脂で覆った材料が使われてきた。先進医療として認められたのは、補強材として金属の代わりにガラス繊維を使った合成樹脂製のブリッジだ。
東京都内の歯科材料会社と共同開発した日本歯科大の新谷明喜教授によると、臨床研究には7人が参加し、長い人で治療後1年近くたったが、今のところ不具合は出ていないという。
先進医療は、先進的な医療技術部分は全額患者の負担だが、診察や検査には保険が利く。将来的には保険診療となる可能性もある。
新谷さんは「先進技術を使った新材料の開発で、少ない負担で金属に頼らない治療が受けられるようにしたい」と話している。
<朝日新聞 2012年12月18日付 記事より>